ヘリサートとイリサートの比較
こんにちは、アートウインズです。
今回は製品のネジ溝の強化に使用される『ねじインサート』についての記事になります。
「ねじインサート」は種類も多く、全てを説明すると膨大な記事になってしまう為、今回は「ヘリサート」と「イリサート」の2種類の比較記事になります。
弊社ではこの2種類を主に金属加工の仕上げに使用しているものになるので、ベースは金属加工目線の記事になります。
しかし、金属だけではなく樹脂にも使用可能です。読者様は加工材質に捉われずにあくまでヘリサートやイリサートの事についての知識を綴っているので是非ご覧下さい‼
ご参考になれば幸いです。
はじめに
なぜ、このような記事を執筆したかと言うと、未だにヘリサートの知名度が高く、イリサートがあまり認知されていない事と弊社では状況に応じて図面にヘリサートの指示であっても、
イリサート(その他インサートなど)に変更させて頂きたい場合などがあります。(その都度、お問合せさせて頂いています。)
では何故、変更するのか?やイリサートとヘリサートの細かい違いなどを読者様に共有できればと思います。
1インサートとは?
樹脂や金属の軟質材のネジ山を補強する為に金属で成形されたナットやコイル(通称:玉)を製品に埋め込み、
ベース(製品など)は軟質でもネジ山の材質を硬質にする事でネジ山を強化する事ができます。
ネジ山の強化をする事で、繰り返し使用してもネジ山がバカ(ネジ山が潰れる様)になりにくく、締め付けの際にも強く固定する事が可能になります。
ネジ山の強化以外にも使用される要素はいくつかあります。
それは、繰り返し使用しているうちにバカになってしまったネジ山を修復する為に使用したり、設計変更などで予定している大きさのタップがもともと開いている穴が広がっていて
下穴が充分に確保できない時などにもインサートを使用してネジ山を再現する事もあります。
上記に共通するのはネジ山の修正です。
では、なぜ修復が可能なのかと言うと、タップの下穴とインサートの下穴の大きさが異なるからです。
冒頭でも説明したように、基本的にインサートはナットやコイル状の形状になっています。
通常のナットを想像してもらえばわかりやすいのですが、ナットは内径がネジ(雌ネジ)になっており、外径が六角形のドーナツ型のようになっています。
このことから分かるように「外径」が存在する為、インサートを入れる際にその外径が入る分、下穴が通常より大きくなります。
その為、修正を行う時にインサートを挿入する下穴分の加工代が確保出来るのであれば通常のタップ穴の修正が可能になると言う事です。
応用を効かせれば、ネジ山強化以外にも使用出来るのでインサートの事を知っていて損はしないです。それでは次に、「ヘリサート」と「イリサート」の特徴を詳しく解説していきます。
2ヘリサートの特徴
ヘリサートとは、ねじインサート系の一種で玉(たま)はステンレス鋼線(ワイヤー)をコイル状に曲げ加工を行って製造されています。
ヘリサート専用の挿入器具を用いて、その器具に玉をセットし材料に押し当て、時計回りに回転させながら挿入していきます。
そして挿入後、玉にはタングと言われる挿入器具の引っ掛け部分があり、器具を逆回転させてそのタングがへし折れたら器具を抜き、
挿入完了といった流れになります。(「タングレス」と言ったヘリサートの玉も存在します。)
挿入の際に、挿入する為の下穴が必要となり、その下穴にヘリサート専用のタップでネジ溝を加工します。
ヘリサート専用のタップは文字通り専用の工具になる為、他の用途(Mネジとしてなど)での使用ができませんし、別途購入が必要になります。
※特別入手困難な物ではありません。
3イリサートの特徴
イリサートとは、ねじインサート系の一種で玉は筒型で切削の一体加工で製造されており、タングが無く内外径共にネジ溝があります。
元々イリサートは、ヘリサートの挿入不良などトラブルを改善する為に開発された製品です。
イリサートにも専用の挿入器具があり、その器具を用いて製品に玉を挿入します。
挿入方法は凄く簡易的で、挿入器具に玉をセットして器具を時計回りに回転させて挿入します。
挿入後は、タングが無いので器具が抜き取れるまで逆回転させるだけで挿入完了になります。
(一見、ヘリサートと同じに思えますが、下記の比較を参考にして頂ければ違いを理解していただけます。)
イリサートも挿入の際に下穴が必要であり、その下穴に細目の Mネジタップを切ります。
ここはヘリサートとは異なる点で、ネジ規格にある市販品のタップを使用します。
ここに大きなメリットがあり、ネジ規格品のタップを使用するので状況に応じて幅広く併用が可能です。
例えイリサートを挿入する為に購入したとしても他の用途でも使用出来る事があります。
もちろん、既に別件で購入しているのであれば、購入する必要はありません。
4特徴の比較
上記で説明した事やそれ以外にも比較要素があるので、上記で説明しきれていない特徴を含め、比較解説をしていきます。
❶:挿入の難易度やトラブル
挿入に関しては、トラブル回避の対策として開発された「イリサート」が挿入難易度も低く、
ねじドライバーを使う感覚で誰でも簡単に入れられる仕様になっているのでオススメです。
それに比べるとヘリサートは挿入する際の癖が強く、ちょっとしたコツが必要になってくる為、誰でも簡単にとは言い難いです。
ある程度手慣れていても挿入のミスが発生する事もあります。
よくあるケースはピッチ飛びや玉を深く入れすぎる事です。この辺りの解説もしていきます。
ピッチ飛びは、下穴に切った専用タップの溝に玉が上手く沿わない事があり、玉がバネ(コイル)状になっている為、
ピッチを飛ばして伸びたまま挿入される事があります。
ヘリサートの玉は、玉が溝に沿って適切な長さに伸びる事で機能するものになるのでピッチを飛ばしてしまうとねじ溝として機能しなくなります。
それに比べてイリサートの玉は一体加工された筒状の玉なので伸びたり縮んだりせず、ピッチ飛びを気にせず挿入する事ができます。
玉の入れすぎは、挿入器具に玉を装着して器具を回転させて挿入するのですが、
ヘリサートの場合は回転しすぎるとどんどん穴の中に入っていきます。
イリサートの場合は玉の装着に不具合がなければ、器具の回転が止まる仕様になっているので入れすぎ防止にもなります。
どちらのケースも確認しながら挿入していけば対処が出来るのですが、
ヘリサートの場合は力加減の難しさや途中で確認がしづらい(見えづらい)のでこの様なトラブルを招きやすくなっています。
そのトラブル改善の為に製造されたのがイリサートになっているので挿入しやすいのは当然と言えます。
❷:コスト
コスト面を抑えたい場合などはヘリサートがオススメです。仕入れ先やサイズにもよりますが、
挿入器具・玉はヘリサートに比べるとイリサートは約2〜3倍程の価格になっています。
❸:挿入ミスなどの対処
誤った長さや入れ過ぎによって、挿入した玉を抜かなければならない時はどちらも対処可能です。
しかし、イリサートの場合は別売りの「抜き取り工具」が必要になり、ここでもコスト面に影響があります。
ヘリサートの場合は、ペンチの様なものでバネをつかめれば引っ張って抜き取ることは可能です。
イリサートよりは対処がしやすいです。
❹:挿入後の変化
繰り返し使用する場合はイリサートがオススメです。
ヘリサートの場合は玉がバネになっている為、どうしてもバネ伸びが発生します。
イリサートに関しては一体加工なので伸びたりはしないので、繰り返し使用しても安心して利用する事ができます。
ただし、ネジの締め加減には注意が必要で、ネジがバカになったりネジと一緒に玉が抜けるなんて事があります。
❺:玉の規格サイズ
玉の規格サイズはヘリサートが豊富です。
イリサートの場合はM1.2〜M10と一部ユニファイネジ規格になります。
対してヘリサート並目でM2〜M42、細目はM6〜M52とかなり種類豊富です。
しかし、どうしてもイリサートが良い場合は特注品も受付けている様なので一度メーカーに問い合わせてみるのも良いかもしれません。
❻:下穴のサイズ
まず前提として、基本的にインサート関連は玉を入れるので通常タップの下穴に比べると玉の挿入分、下穴を大きな穴径で開けなければなりません。
挿入するインサートの種類によっても下穴の大きさが異なります。
今回の比較対象のイリサートとヘリサートも少し大きさが異なります。開ける下穴の大きさは、ヘリサートの方が小さく、イリサートの方が大きいです。
その為、壁面に近い所や複数ある下穴のピッチ間が狭い場合はヘリサートを使用する事でイリサートより肉厚の確保が可能になり、
強度を高める事ができます。少しでも肉厚の確保したい時にはヘリサートがオススメです。
5まとめ
イリサートがヘリサートのトラブル解決の為に製作された物だからと言って、全てが優れているわけではありません。
上記で解説したようなケースやその他状況に応じて、ケースバイケースで使い分けていければ良いと思います。
「コストパフォーマンス・肉厚の確保・規格サイズの豊富さ」などにはヘリサート。
「挿入作業の簡易化・時短・形状変化の防止」などにはイリサート。
のように特化している部分を考慮して作業を進める事が一番のトラブル回避になると思います。
それと、上記の事を踏まえて冒頭の『はじめに』の部分で図面に記載しているインサートの指示を変更させて頂きたい場面がある。
と言った部分も少し解説致します。
それは、図面を無視するといったことではなく、スピード・コスト・強度・安全性などを考慮した上で、
「状況や形状によってより良い方向に向くように提案をさせて頂きたい。」という事です。
少しでもお客様の製品開発のお役に立てるように最善の提案をさせて頂き、お問合せをさせて頂いております。
今回はこの二つのインサートの解説記事になり、二つしか無いのではなく、他にもいろいろなインサートが存在します。
あくまで比較記事になっていますのでトラブル回避の選択肢はまだまだあると思います。
ふと、お悩みの状況に出くわした場合は是非、参考にしてみて下さい。
最後までご愛読いただきましてありがとうございました。