ステンレスのSUS303と304の違い(切削)
SUS304とSUS303は材質を変更していいの?
こんにちは、アートウインズです。
今回は金属加工では欠かせない、ステンレスの『SUS303とSUS304』の違いについて解説していきます。
1はじめに
今回この記事を執筆しようとしたきっかけは大きく分けて2つあります。
その一つは単純に読者様に弊社の経験が参考になれば良いかと思った点と、もう一つは企業によっては加工材質の変更を求められるケースがあり、
なぜ変更を要求するのか?と疑問に思われやすい部分を解決に導くために解説をしようと思ったのがきっかけです。
上記の件で業界によっては加工業者から「SUS304の材質からSUS303に変更してほしい」と言われる事は少なくないかと思われます。(逆も然り)
そんな時にどう判断や対処をすれば良いかや加工や発注をする前に特徴を知っておく事で後のリスクヘッジになると思います。
最後まで見て頂ければ幸いです。
解説の内容としましては、主に切削に関する事がメインになり、特徴なども弊社の経験を基に解説していきます。
誰でも分かりやすく、シンプルな表現で深掘りしながら解説いたしますので是非ご覧下さい。
2SUS303とSUS304とは
今回の題材となっている『SUS303』と『SUS304』はステンレスと言われる鋼に属する材質になります。
SUSと記されている頭のアルファベット3文字は日本語で『サス』と呼ばれており、SUS=「Steel Special Use Stainless」の略称になります。
要するに「サス=ステンレス」といった認識になります。
因みにステンレスには直訳すると「よごれのない・さびない」などの意味があり、一般的には通称「錆びにくい鋼」として認知されています。
『SUS303』と『SUS304』はステンレスの中でオーステナイト系に部類されており、化学成分はFe-Cr-Ni系となっております。
他にもオーステナイト系で有名な材質で『SUS316』と言うものもありますが、今回の解説では割愛させて頂きます。
この2種類に共通する大きな特徴は3点あり、一つ目は「外観」です。
見た目はほぼ違いがなく、目視による判断は非常に困難だと思われます。
二つ目は「磁性」です。
両種とも磁性が無い為、磁力による判別もできかねます。
しかし、元(ブロック材)は磁性は無いものの、切削などで発生した切粉などは加工硬化によって磁性を持つ事があり、切削後の切粉などに磁石を当てるとくっつく事があります。
三つ目は「比重」です。
両種ともに比重は「7.93」となっており、材質を変えることで重さが変わるという事はありません。
しかし、全てのステンレスの比重が同じではなく、同じオーステナイト系でも比重が異なる物もあるので注意が必要です。
3SUS303とSUS304の特徴と違い
『SUS303』と『SUS304』の物性はほとんど同じで、耐力・引っ張り強さ・伸びなどもさほど違いはありません。
大きく違う部分としてはSUS304に比べてSUS303にはP(リン)とS(硫黄)の成分が多く含まれている事です。
ただ多く含まれているのではなく、このP(リン)とS(硫黄)の成分量の違いが加工をする際の特徴に大きな変化が表れます。
それでは、どのような特徴の変化が現れているかを6つ紹介していきます。
この6つの特徴は金属加工を行う上で、かなり重要ですが案外有名な特徴です。
ただ解説するだけでなく、弊社の経験を踏まえて深堀りしながら解説していきたいと思います。
切削性
SUS304は粘り気が強く、切削性は良くありません。
実際にエンドミルなどで削ってみると鈍い切削音がし、切削工具のヘタリも早く、削った後にカエリが出やすいです。
それに比べてSUS303はリンと硫黄を多く含んでいる事により、粘り気が少なくサクサクとしていて切削性や切削スピードが向上します。
※別名:快削ステンレスなどの呼び方があります。
切粉
上記の切削性で解説した特徴からわかるように、SUS304は粘り気が強い為、切粉は帯状に繋がりやすい傾向があります。
逆にSUS303はサクサクしているので切粉が丸まり、粒状の様になる傾向があります。
この性質は旋盤で削ると違いが良くわかり、どちらか判別する方法のひとつになると思います
溶接性
溶接性はSUS304の方が良く、それに比べてSUS303はリンと硫黄を多く含有している事で溶接性が低下する傾向がある為、SUS304の方が良いとされています。
実際に溶接をする為に材質をSUS304を選択されているケースもあります。
耐食性
元々ステンレス自体は耐食性(腐食に強い、錆びなど)に優れており、その中でもSUS303よりもSUS304の方が優れている為、SUS304に軍配が上がります。
SUS303が劣ると言うよりもSUS304がより有能であると言う方が正しいです。
耐焼付性
物体同士の摩擦による摩耗などによって表面が密着し、焼き付きを起こしてしまう事を「耐焼付性」といい、結論はSUS304の方が焼付けを起こしやすいです。
これは切削性とも関連していて、SUS304は焼付けを起こしやすく、粘っこい材質の為、切削工具も摩耗が早く難削材と言われております。
一方、材質自体がサクサクしているSUS303はSUS304よりかは耐焼付性も良いので切削性が良好となります。
コスト
紛らわしい言い方になりますが、基本的に材料コストはSUS304の方が安価に仕入れることが可能です。
しかし、加工コストはSUS303の方が低コストで行う事ができます。
ではなぜSUS303は加工コストを下げられるのか。
それは上記の特徴から引用して解説すると、切削性の良さが加工時間の削減や切削工具の寿命を引き延ばすことが主な理由になります。
ちなみにSUS303とSUS304では形状にもよりますが、およそ倍ほどの加工時間差が発生します。
このように製造(加工者)側の見えないところでコストが下がっているので加工コストを下げることが可能になります。
4特徴と違いのまとめ
それでは、上記の特徴などを両種別にまとめていきます。
SUS303
上記の特徴を基にSUS304と大きく違う良好且つ重要点のまとめとしては、「切削性・耐焼付性・加工コストの削減」の3点かと思われます。
P(リン)とS(硫黄)の成分を多く含むことにより、切削性や耐焼付性が良好になります。
そして、それらの効果で快作性が良くなり、加工時間や加工工具の消耗を抑える事ができ、加工コストが削減できるといった流れになります。
それ以外にも「切削性・耐焼付性・加工コストの削減」の3点のいずれかだけでも魅力を感じる事が出来るのであれば、
SUS303はSUS304に互換するオーステナイト系ステンレスの中で適した材料ではないかと思われます。
SUS304
上記の特徴を基にSUS303とは大きく違う良好且つ重要点のまとめとしては、「耐食性・溶接性・材料コストの削減」の3点かと思われます。
材料成分の性質上、耐食性(錆に強い)が良く、溶接性が良好です。
なので、なるべく腐食してほしくない場合や溶接加工に特化させる場合はSUS304の方が適しています。
※耐食性はSUS304がより良いだけで、SUS303が悪い訳ではありません。基本的にステンレス全般、耐食性は良好です!!
材料コストに関しては、基本的にSUS303より安価で入手が出来るので、
加工が単純な物(例えば、ドリルでの穴加工するだけのケース)であれば、SUS304の方がコストが下がる場合があるかもしれませんね。
5SUS303とSUS304の総合まとめ
見た目・磁性(無い)・比重の3点には特に違いはなく、両種を簡単に分類してみると、
『SUS303は切削性が重視されている材質』、『SUS304は性質が重視されている材質』として特徴を覚えておくと、差別化ができるのではないかと思います。
加工者や発注者は共に上記の特徴を理解しておくことで、材質を変更して良いものなのかどうかの判断がつくと思います。
ケースとしては「SUS304をSUS303に変更してほしい」と言われることが多いと思います。
そういった場合で苦慮する際は何を重点に置いているのかが肝になると思います。
発注者側は「溶接性を損なわせたくない」「コストがかからない方が良い」「なるべく耐食性の良い方がいい」「物性は変えたくない」などで判断していくと変更依頼をスムーズに解答する事が出来ると思います。
逆に加工者側はSUS303に変更依頼をかける際にこういった特徴を予め発注者側に説明しておく事で素早い解答を頂けるのではないかと思っています。
6最後に
いかがでしたでしょうか?少しでも読者様のお力になれればと思い、執筆致しました!
弊社の経験を活かし、言葉足らずな部分も多々あると思いますが、この記事が少しでも読者様の参考になれば幸いです。
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最後までご愛読ありがとうございました。