お役立ち情報(詳細)

3軸と5軸の加工機の違い

(3軸と5軸加工機の簡単な解説)

こんにちは、アートウインズです。
今回は3軸と5軸の加工機(マシン)についての記事になります。
一般的に知られている有名な切削マシンといえば3軸加工機だと思われます。
しかし、昨今では5軸加工機も企業に普及し、今ではそれほど希少なマシンではありません。
 どこの企業でも大活躍している5軸加工機ですが、実際のところ何がどう違うのかがわからない。といった方向けの解説記事になります。
機能性の違いや、どういったメリットやデメリットがあるのかを出来るだけわかりやすく解説していきますので御参考になれば幸いです。
それでは解説をしていきます。

3軸加工機とは

切削業界で一般的に用いられている3軸加工機(マシン)。
加工機と言うだけあって加工を行う機械でエンドミルやドリルといった刃物をマシンに装着して加工を行います。
加工機の説明は割愛して、それよりも問題視するのは「3軸」という部分になると思います。

3軸とは、3次元座標のX・Y・Zを軸にした3つの事を指します。
加工機によって異なる部分はありますが、一般的に機械を正面にした状態で左右に動く軸をX軸と言い、前後(手前から奥)に動く軸をY軸と言い、上下(高さ方向)に動く軸をZ軸と言います。
​​​これら直線軸のX・Y・Zの3軸を駆使して加工するマシンを「3軸加工機」と言います。

ここからは3軸についてもう少し深掘りした、使用用途の説明をします。

ただ3軸と言っても、上下前後左右の様に直線的な動きをするだけではありません。
3軸の内の2軸を同時に動かすことによって、斜めの溝や丸を描くような動きが可能になります。
更に3軸同時に動かす事で湾曲した形状や球体や角錐といった形状を作り出せるようになります。
もちろん、1軸のみの直線的な動きも凄く重要で、ドリルで穴を開ける時や溝加工をする時に必要になってきますし、重切削する場合は1軸のみで加工を行う方が切削中のビビリを抑えられる事もあります。

5軸加工機とは

5軸加工機の「5軸」とは3軸加工機にあるX・Y・Zの3つの直線軸とA・B・Cの回転軸のいずれか2軸を追加した合計5つの軸が使用可能になったマシンです。
追加する2軸の回転軸のうち、一つはテーブルが360°回転する事ができる『回転軸』、もう一つはテーブルや主軸を±90°以上(若しくは+か−のどちらかが)傾ける『傾斜軸』によって構成されています。

この『回転軸』と『傾斜軸』が加わることで、今までサイコロで言うトップの部分からでしか加工する事が出来なかった3軸加工機とは違い、
サイコロ状のサイド4面や法線方向(斜めの方向など)からの加工をする事が可能になりました。
その為、ワンチャック(1工程)で加工範囲が広くなり、面が変わる度に「外して再セット」という間の工程が無くなるので非常に効率が良くなり、生産性の向上に繋がります。
特に多面加工のある大物や数物の製品に対しては膨大な威力を発揮できるかと思います。

それはそうと、「A・B・Cの軸とは?」と疑問になっている方や、初めて耳にされる方は少なくないかと思われます。
A・B・C軸」とは、X・Y・Zのそれぞれの直線軸を中心にして回転する軸、すなわち『回転軸』の事を指します。
それだけ言われても抽象的な解説になりますね。
それでは、もう少し回転軸について具体的に解説すると、「直線軸=ドリル」だと仮定します。
そのドリルが回転している姿をイメージすると、ドリルは中心を軸に回転します。
その回転している中心の軸のことを『回転軸』といいます。
回転するというのがポイントになり、回転を加味していないとただの直線軸になります。
この『回転軸』の意味を理解して頂いたうえで「A・B・C軸」を解説すると、「X軸を中心にした回転軸をA軸(X=A)」「Y軸を中心にした回転軸をB軸(Y=B)」「Z軸を中心にした回転軸をC軸(Z=C)」
といったようにそれぞれの直線軸を回転軸に置き換えることで「X・Y・Z」から「A・B・C」へと定義されるようになります。

ここでもう一つ解説ポイントがあります。
それは、『なぜ、5軸なのか?』というポイントです。
A・B・Cがあるから6軸では?」とこういった点で疑問になっている方がいると思うのでその点の解説も致します。

結論から言うと、法線方向の角度の割り出しにはA・B・C3つの内の2つの軸があれば、割り出すことができるからです。
どの組み合わせでも良く、ABACBCのように回転軸の2軸があれば法線方向(加工範囲である全ての角度)の割り出しが可能になります。
大抵のマシンはABのどちらかが傾斜軸になり、C軸を回転軸として設計されています。

それと、6軸で無い観点に更に追記すると、5軸で割り出せるのであれば、あえて6軸にする必要はないかと思われますし、
6軸にすることでより複雑な構造になり、コストもより高くなると思われます。
機械を販売するメーカーも便利且つコストパフォーマンスが良い方がマーケティング的にも良いかと思われます。
とは言っても、6軸加工機が存在しない訳でもなく、6軸を活かした便利な部分もあります。
いずれは6軸加工機の記事も書いてみようかと思いますが、今回は3軸と5軸の比較なので割愛させていただきます。

強みと注意点

3軸と5軸のそれぞれの強みと注意点を解説していきます。

3軸加工機の強みと注意点

3軸加工機はやはりテーブルも主軸側も回転せずに固定されているので、その分マシン剛性が高いのが強みになります。
剛性が高いことで重切削や寸法精度の向上には最適です。

他にも治具関連の製品が豊富で使用しやすく、多種多様の使い方ができるので段取りもしやすいです。
例えば、ロータリーやイケール・バイスなどがセッティングも比較的簡単で使い勝手が良いかと思われます。 (他にも真空チャックなどもありますね!)

最後に「加工工程のイメージがしやすい」ところです。
考え方が3軸になるので5軸よりも加工工程やセッティングが難儀にはなりません。
何点か例に出すと、工具(エンドミルなど)の飛び出し量や主軸側と製品や治具との干渉チェックを単純な計算をするだけで対処できます。
実際にマシンを動かして目視で確認するとより容易にリスクヘッジが可能になります。

注意点としては、加工物が多面加工になればなる程、セッティング工数が多くなり、セットにかかる時間が多く、セッティングミスをするリスクも確実に増える事になります。
セッティングミスはある程度は対処は出来るものの、人がセットしている以上はヒューマンエラーは生じるものだと思いますので、熟練者でも非常に注意深くしている部分になると思います。

5軸加工機の強みと注意点

5軸加工機の強みはもちろん、ワンチャックで多面加工ができるところですね。
加工範囲内なら一度のセットで加工を全て完結させられるので、次工程の為の治具や段取りのセッティング工数が減ります。
工数が減るということは大幅な時間短縮とヒューマンエラーも減るということなので、一番の強みになると思います。

その他にも、同時5軸加工といって、文字通り5軸すべてを同時に動かすことによって、アンダー形状になっているインペラのような製品も加工することができ、
3軸加工機では加工不可な形状でも5軸加工機なら可能になる事もあります。

強み部分で最後にもう一つ、面精度の向上も見込めます。
それは、傾斜軸や回転軸を利用してあえて製品に角度を付けて加工をすることで工具長さを縮めることができます。
主にボールエンドミルの使用時に使われる技術なのですが、L字形状の様なそり立つ壁もV字になる様に角度を割り出すことで工具長さを抑えることが可能になり、
工具のビビリを抑制し精度を向上させて加工を行えます。
また、ボールエンドミルのように先端に刃がない工具に角度を付ける事で、終始刃のある部分で理に適った加工を実現できます。

注意点もいくつかあります。

まずは「主軸とテーブルの干渉」です。
注意点の一番といっても過言でないかと思います。
干渉防止制御がついているマシンも存在しますが、制御の無いマシンは主軸とテーブルが衝突する事故が発生します。
事故した場合はもちろん修理する羽目になると思いますので、危険な角度や深さで加工する際は、細心の注意が必要になります。

次に「ワークの固定方法」です。
あらゆる方向から加工ができるが故に、ワークが受ける負荷も尋常ではありません。
加工状況にもよりますが、従来の挟みつけるタイプのバイスなどでは、サイドや斜めからの加工負荷に耐えきれずにワークにズレが生じる事があります。
5軸加工機ならではの治具が必要になり、ズレが発生しないように試行錯誤しなければなりません。
また、負荷がかかりづらいように加工する事もポイントになります。

最後に、「寸法精度」です。ワンチャックであらゆる方向から加工が出来る5軸加工機ですが、ワンチャックで加工しているからと言って寸法精度が良い訳ではありません。
3軸加工機とは違い、テーブルが動いているマシンになるので動きが大胆になる分、寸法が安定しにくくなります。
例えば、サイドの割り出し加工で球体のような形状を削りだしてみると、サイドから削った別の角度同士の境目に大なり小なり段が出来る事があります。
5軸加工機は凄く繊細なマシンなので、小まめに校正などのメンテナンスをしたり、空調を整えるなどの対策が重要になってきます。

まとめ

ここまで、3軸と5軸の加工機について綴ってきましたが、結論としては課題によって使い分ける事が大切になります。
それぞれにしっかりとした善し悪しが存在するので固執してどちらの方が良いということはありません。
強みや注意点を明確にする事で課題に対してマシンの性能をより活かせる様になり、生産性の向上に繋げる事ができると思います。
今回は弊社の経験をベースにしたので業種によっては見解が異なる部分もあると思いますが、この記事が少しでも御参考になればと思っています。

最後までご愛読いただきましてありがとうございました。