超硬ドリルとハイスドリルの比較解説
こんにちは試作品製造業のアートウインズです。今回はドリルの比較についての記事になります。
比較対象は切削で良く利用される「超硬ドリル」と「ハイスドリル」の比較解説です。その中で超硬とハイスについての癖(性質)なども解説いたします。
普段ドリルはハイス若しくは超硬しか使用していないから改善したい方や比較を知りたい方、エンドミルでも同じ様な事が言える場面もあるので、是非ご覧下さい。
本題に入る前に比較解説の前提条件として弊社は主にマシニング切削で試作品の製造をメインにしている会社です。その為、『弊社の経験談を基にしている』『マシンでの切削を基準にする』などを前提にさせていただきます。少しでも読者様の参考になるように分かり易く噛み砕いて説明していきます。
1超硬とハイスどちらがいいの?(結論)
早速この問題の結論を言います。
ドリルを使用して製造する上で必ずと言ってよい程出る疑問点の結論は「状況に応じて使い分ける」が正解だと思います。どちらの材質も性能が優れている為、しっかり特徴を理解して使用する事でリスクヘッジが可能になります。
仮にどちらかに固執してしまうと大きなリスクやトラブルの壁にぶつかる可能性が高くなります。
どちらの材質にもメリット・デメリットが存在するのでリスクヘッジの為にも理解する必要があります。
ただし一方的にそれ‼︎とは決め難いものの、どちらかといえば…という回答はあります。
これも業種によっては大きく左右すると思うのでこの記事を参考にした結果、読者様の業種にあった材質のドリルを選んで頂ければ良いと思います。
※因みに弊社ではハイスのドリルをメインに使用しています。その理由も後に解説させて頂きます。
2使い分けの解説
この解説は弊社の今までの経験を基に『超硬』『ハイス』の特性を考慮した使い分けの記事になります。先ずはザックリした解説を致します。
超硬ドリルに向いている加工状況は主に「量産加工」「多穴加工」「難削材」「硬度が高い材料」「高速切削」「精度重視」「面精度の向上」などです。
ハイスのドリルに向いている加工状況は「コスパ重視の加工」「小ロットで都度異なる製品の加工」「テスト加工」「ボール盤での加工」などです。一見、超硬ドリルが優秀に見えますね。
他にも、様々な状況はあると思いますがこの辺りを軸に深掘りしながら「何故、向いているのか」を特徴なども含め解説していきます。
3ドリルの特徴
先ずはドリルの特徴の解説からしていきます。この解説を基に後の「使い分けの方法」を解説致します。
1ハイスドリル
名前の通り「ハイス鋼・別名:HSS(ハイ・スピード・スチール)」で製造されたドリルのことをいいます。
弊社が思う超硬とは違う大きな特徴は3つあり、「安価・柔軟性・流通や在庫の豊富さ」が思い当たります。
それら3つとデメリットの解説を致します。
安価
超硬ドリルと比較してみると超硬はハイスに対しての値段は3倍〜5倍程、場合によってはそれ以上の価格になる事もあります。このことから大幅なコストダウンが見込めます。これだけでもハイスドリルを使用するメリットがあります。
柔軟性
ハイスは超硬に比べると柔らかく、その柔らかさ故に柔軟性を兼ね備えています。
少し語弊のある言い方かもしれませんが、この柔軟性は業界で言うと「粘っこい」という表現の事です。
この柔軟性の効果でチッピング(刃の欠け)しにくいことやドリル自体しなりやすく、折れにくくなる性質を持ち合わせています。
しかしドリルが折れにくくなる事はデメリットにもなります。
粘っこく折れにくい事が仇となるデメリットの例としては、切削条件やもみつけの不良が原因で深穴切削中にドリルがしなり(曲がり)、穴が斜めにしなりながら開いてしまう事があります。
流通や在庫の豊富さ
ハイスドリルで最も一般的なSD(ストレートドリル)は多くの業界から利用されている事もあり、超ロングといった特殊な物でなければ商社からではなく一般の工具店からでも購入できます。
手元に持ち合わせていなくても流通量の豊富さ故に短時間で入手が可能です。
ハイスのデメリット
ハイスドリルのおさらいも兼ねて解説致します。
先ずは難削材の加工が困難です。いくらハイスと言っても超硬よりは柔らかく、被削材の硬度が上がってくるとなかなかスピードも上げられずに加工時間が長くなり、時間を費やしてしまいます。
時間短縮の為に無理してスピードを上げると刃が熱により切れなくなり、穴の中で不良切削し使い物にならなくなります。
(最悪の場合はワークも熱によって溶けてしまいます)ドリルは刃先全面を利用し削る事が多いですが、その分設置面積が多くなり熱が持ちやすくなるのでスピードUPするには注意が必要です。
また、上記で説明した様に加工中にドリルが曲がってしまう事があり、柔軟性が欠点になる事もあるのでデメリット(注意点)の一つです。
2超硬ドリル
これも名前の通り「超硬合金」で製造されたドリルのことをいいます。
ハイスとは違う大きな特徴としては「硬度・切削性・工具寿命」の3つが思い当たります。
こちらもそれら3つとデメリットを解説していきます。
硬度
超硬はハイスよりも非常に硬く、ハイスでは加工困難な難削材(削りにくい材料)でも超硬では難なく削る事が出来る程、硬さに差があります。しかしその反面、やはりデメリットになることもあります。
その硬さが故に脆く欠けやすい為、チッピングしやすい事です。加工以外でも不意に衝撃を与えるとチッピングしてしまう恐れもあります。加工中に関しても刃が磨耗する事で削れ辛くなり、徐々に刃に衝撃が加わり始めるとチッピングしてしまいます。
チッピングといっても酷い時には刃先から10mm前後無くなる事もありますので刃の消耗の確認を怠らない様に注意しましょう。
切削性
正直これは「硬度」の中にも含まれる要素なのですが大切な事なので別要素としての部類に致しました。
切削性に関してもハイスと比較していくと差は歴然です。
超硬は性質上歪みにくさやビビり(振れる様)にくさも兼ね備えており、それと硬度の高さによって切れ味が良くなり、切削スピードを上げることや高精度且つ加工面精度を向上させる事が可能になります。
工具寿命
これも「硬度」に関係している事ですが、摩耗性もハイスに比べると長持ちする傾向があります。
その為、量産や多穴加工に最適です。
近年、超硬のコーティング種類も豊富になっており、コーティングをすることで更なる工具寿命の延命に繋げることも可能です。
超硬のデメリット
超硬ドリルのおさらいも兼ねて解説致します。
上記でも説明した様に超硬の脆さです。床に落としたり、少し刃先に何かが接触して衝撃が加わると刃が無くなっているといった事も良くある話です。材質に関わらず、ドリルやエンドミルは回転して初めて威力が発揮出来る物なので超硬に関しては、より丁重に扱う必要があります。
次に、価格の高さです。ハイスと比較すると3倍以上の価格帯になります。単発ものの一部分の穴にわざわざ購入してまで超硬ドリルを使用するにはあまりにもコストが掛かり過ぎます。
コストと性能に見合った加工をするには量産や多穴での加工に使用する事です。どちらも複数の穴加工をするのでスピードも上げる事が可能になり、消耗の少ない且つ高精度で加工が出来る「超硬」が性能の威力を発揮でき、値段相応の働きをしてくれる商品になっています。
最後に失敗した時のダメージが大きくなることがあります。
新たな工具や材料費の出費はもちろんの事、加工中に工具が折れたり刺さったりした場合に材料に超硬工具の破片が喰い込む事があります。そういった場合、運が良ければ破片を取り除けるのですが最悪のケースは材料に喰い込みきって破片の場所がわからなくなることがあります。
そういった場合、取り出す方法はほぼ皆無です。取り出さずに加工をすると破片と工具が接触した途端に工具がチッピングします。
ケースバイケースで放電で電解することは可能ですが、なかなかそういったケースも少ないと思います。
段取り・設定・消耗の確認等を怠らない様にし、極力失敗しない様に注意しましょう。
4弊社がハイスのドリルメインにしている理由
ケースバイケースで使い分けると言いましたが、上記の※で弊社がハイスのドリルをメインに使用していると言いました。では、どのようなケースでハイスドリルをメインにしているのか理由を解説していきます。
弊社の業種は試作品の製造業であり、小ロットで日々異なる案件の製造を行っています。その異なる案件によりその都度穴径や材質も変わり、量産の様に同じ物を加工しているわけではありません。
その為、あらゆる案件の製品に柔軟に対応する必要性や日々最善の段取りを組む為にある程度の切削工具の在庫(エンドミルやドリル)を取り揃えていないと即座に対応が出来ない事があります。
受注後に注文していると工具の届く時間がタイムロスになり生産性が良くありません。そのことからなるべく低コストで在庫を取り揃える必要があります。そこで超硬ドリルを買い揃えるとなるとコスト的に見合わなくなってきます。
ハイスのドリルでも十分にあらゆる材質に対応が可能で、コストパフォーマンスが良く在庫しやすい、ボール盤や彫刻機のような剛性の無い機械でも対応できる柔軟性があるハイスのドリルが弊社のワークスタイルにはピッタリなのです。超硬を利用する場合は、上記で解説した超硬の力を十分に発揮する場合のみ、その都度購入しています。
この様に何を重点に置くかでメインを決め、状況によって性能が見合っている方を使用することで上手く使い分けていけると思います。
5まとめ
「ハイス」や「超硬」の性質を理解しておく事で使い分けがしやすくなるのでしっかり性質を理解して使用した上で読者様にとってどちらが最適なのかを選んで頂ければ良いかと思います。
また、「一度使用してみる」ということが凄く大切な事で、この記事では記されていない癖や体感が養われます。くれぐれも固定概念でドリルの材質に固執せず、双方使い分けてリスクヘッジをしていただければと思います。
最後まで長々と読んでいただき、ありがとうございました。